株式会社わくわくスタディワールド

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レベルに合わせた“粒度”で勉強する

ソムリエは,ワインの微妙な味の違いを感じ取れます。
オーディオマニアになると,微妙な音の変化や,ハーモニーを聞き分けられるようになります。
アニメに詳しくなると,声を聴いただけで声優がわかったり,作画監督の違いが見分けられるようになります。

そんな感じで,趣味でも勉強でも,ある分野を極めていくというのは,「細かい変化」がわかるようになることでもあります。
システムのトラブルシューティングの時に,スキルレベルが高くなると,普段とちょっと違うOSの動作や,ファンの音などからでもヒントが得られるようになります。

といっても,いきなり最初から細かく区別することを目指すと,「ある特定の分野だけ詳しく,他が全然見えない」ということになりがちです。
特に最近は,専門分野だけ知っていればよいということはあまりなく,全体的に知っていて,なおかつ自分の専門分野には詳しい,という両輪が求められることが多いです。

ですので,勉強する段階では,まずはざっと全体を勉強して,それをだんだん細分化していく必要があります。
自分が認識できる範囲の大きさを,“粒度”ともいいますが,この粒度は,最初は粗く,その後だんだん細かくしていくのが,段階を追って勉強する時にはベストです。

情報処理技術者試験は,レベル1,レベル2,レベル3,レベル4とだんだんレベルが上がっていきます。
そして,レベルが上がれば上がるほど,だんだん粒度が細かくなってくるのです。

レベル1のITパスポート試験では,問題の粒度はかなり粗いです。
例えば,ITパスポート平成24年秋期の公開問題の問4では,次のような問題が出てきます。

問4 A商店では,インターネット上にサイトを作り,商店街のプロモーションを行うことにした。サイトに組み込むことによって,顧客とのコミュニケーションの向上が期待できるものはどれか。
ア SCM   イ SNS   ウ SQL   エ SSL

これは,ストラテジ系の小問です。
他の選択肢に,テクノロジ系の用語もいくつか入っているので,なんとなく用語を知っているというレベルでも,消去法で答えを選ぶことができます。
ITパスポートの場合,全体的になんとなく,各分野の用語になじんでいれば正解できる問題が多いのです。

これが,レベル4になると,粒度がかなり細かくなります。
例えば,情報セキュリティスペシャリスト平成24年秋の午前2問題の問14では,先ほどの選択肢の1つ,SSLについて,次のような問題が出題されています。

問14 SSLに関する記述のうち,適切なものはどれか。
ア SSLで使用するWebサーバのディジタル証明書にはIPアドレスの組込みが必須なので,WebサーバのIPアドレスを変更する場合は,ディジタル証明書を再度取得する必要がある。
イ SSLで使用する個人認証用のディジタル証明書は,ICカードなどに格納できるので,格納場所を特定のPCに限定する必要はない。
ウ SSLはWebサーバを経由した特定の利用者間の通信のために開発されたプロトコルであり,Webサーバ提供者への事前の利用者登録が不可欠である。
エ 日本国内では,SSLで使用する共通鍵の長さは,128ビット未満に制限されている。

この2つの問題は,両方とも解答は「イ」で,4択で選ぶことは一緒なのですが,それを正解するために必要な知識の量,レベルは格段に違います。
粒度が細かい問題を解答するためには,狭い分野に対していろいろな知識が必要になるのです。

私が参考書を書いたりするときには,この粒度を試験のレベルに合わせることに気をつけています。
応用情報技術者試験の場合には,基本情報技術者レベルの粗い粒度では足りないですし,高度区分ほど細かい知識は求められません。
レベル3の,「広くそれなりに深い知識」というのが必要ですので,そこに合わせて勉強することが大切です。

もちろん,それぞれの分野においては,粒度が細かいほどレベルが高いので,細かく勉強してもOKです。
ただ,ITパスポート,基本情報技術者,応用情報技術者の3つの試験は,広い範囲について問われていて,聞かれる分野はIT全般になります。

1つの分野だけ詳しくなるのではなく,全体的にまんべんなくやることが求められています。
ですので,こだわって1つの分野を勉強するよりも,広く浅く勉強する必要があります。
レベル1,レベル2,レベル3と3回,ちょっとずつ粒度を細かくしながらIT全般を学ぶことで,全体的な視点でそこそこ深い知識が身につくように,カリキュラムは定められています。

一気に深いところを勉強しようとしても,偏りが出て,なかなかうまくいきません。
なるべく最初は粗い粒度から確実に学んでいって,少しずつ深く,細かく学習していきましょう。