自分の頭の外に答えを探す
今月号の「日経サイエンス」の記事「知能の物理学」で,「人間の知能は,進化的な限界に近づいている」というのがありました。
人間の知能は,物理法則の限界近くまで進化しているので,これ以上はあまり良くならないらしいです。
しかし,人間は集合体として高い知能を達成する可能性があり,インターネットなどの技術によって,知能を肉体の外に広げることができる,というのがその記事の結論でした。
進化,という長い視点で見なくても,人間1人の脳には限界があります。
ですので,本やインターネットなどで知恵を借りたり,人に教わったりします。
自分一人で完結させないで集合知を使う,というのはとても大切です。
仕事ではもちろん,人の知恵を借りて共同で何かを成し遂げる,というのは大事だというのはわかると思います。
でも,試験だとどうしても,「自分一人で立ち向かう」しかないと思ってしまいがちです。
実はそんなことはなくって,「自分の頭の外にある答えを探す」ことも可能だし,それが実はとても大切です。
その相手は,他でもない,「試験問題」です。
試験問題の中には,なにげに,現場の叡智がいっぱい詰まっています。
ただ読んだだけでも勉強になるように,その分野のエッセンスを集めています。
特に,基本情報技術者や応用情報技術者の問題は,読むことによって勉強になる「教育的問題」が多いです。
そして,試験問題には,「このへんが問題なんだ,気づいてよ」といって作問者がアピールしてるような部分がいっぱいあります。そして,「こういう視点で書いてほしいんだ。」という要求もちゃんと設問を中心にちりばめられています。ですので,それを読み取って,素直に答案にすればいいのです。
といっても,それを読み取るためには,ある程度の知識・スキルは必要になります。
情報処理技術者試験,特に高度区分は,「経験やスキルがあるんだったら,このへんは分かるよね」といった,仲間内に通じるような感じで語りかけて来てくれています。
ですので,ある程度勉強を積んでから問題を読むと,問題文はヒントだらけです。
実際,作問したり校正したりするときには,なるべく「この部分を読み取ってほしい」という意図を持って問題を作成します。答えが一意になるように,ヒントをいろいろちりばめます。情報処理技術者試験の場合は,素直にそうやってヒントをちりばめても,正答率が高くなりすぎることはあまりないので,なるべく「読み取ってもらいやすいように」気を遣います。
ですので,なるべく,「問題文からヒントがもらえるように」,自分の頭を空っぽにして,試験問題を読んでみるのがおすすめです。
試験問題の作問者と対話するつもりで読んでいると,結構いっぱい情報がつまっていることに気づくと思います。
このあたりは,特にスペシャリスト系の午後2で顕著だと思います。
10ページ以上の長い問題文の中に,作問者の想いがいっぱい詰まっていますので,それを受け取って,自分の知識や経験でアレンジして,解答を仕上げます。
そして,論文系の午後2,つまり論文も実は一緒です。
1ページの短い問題文の中に,「こんなことがこの試験では大事なんだよ。それについて記述してよ~」という作問者の熱い想いが詰まっています。それを受け取って,その趣旨に沿って,自分の経験をちりばめて書くのが情報処理技術者試験の論文なのです。
私は,いつも試験の前には,「試験問題にさからわないこと」を強く意識しています。
自分の頭で考える以前に,試験問題自身から多くのことを受け取るためです。
自分の頭の外にある試験問題という知を,試験問題を解くために利用するのです。
試験問題の作問者から,なるべく多くのことを受け取って,それに自分の経験やスキルを加味して,集合知的な答案を作成していきます。
そういう風に考えていると,実は「自分のスキルを証明する」と頑張っている時よりも,素直に正答が導きやすくなるのです。
人間1人の頭には,限界が必ずつきまといます。
自分の頭の外にある情報もうまく活用して,より質の高い解答を考えていきましょう。