株式会社わくわくスタディワールド

私が試験テクニックを教えるのをやめた理由

先日,「【わく☆すた】今後の方針と予定について」を公開してから,いろいろな方からさまざまなご意見をいただいています。
中には,「試験に受かるためだけの勉強を認めて欲しい」など,私に許可を求めるメールなどや,「若い人は本質が大事だが,年寄りにはテクニックが必要だ」というコメントなど,自身の立場を正当化するコメントなどもありました。

ですので,ここで改めて,私(美月)が試験テクニックを教えるのをやめた経緯と,その理由についてまとめておきます。

昨日,「嫌われる勇気をもつと,対人関係が楽になる」という記事を書きました。
これから書くことは,万人に受け入れられるものではないとは感じますし,一部の方にはすごく嫌われるとは思いますが,あえて出す勇気は持ちたいと考えています。

まず,結論から先にお話ししておきますと,私が試験テクニックを教えるのをやめた理由は,「テクニックを教えることは,IT業界全体や社会のためにならないから」ということに尽きます。

昨日の記事でアドラー心理学に触れましたが,アドラー心理学での共同体感覚の原則「より大きな共同体の声を聴く」に照らして考えると,自分の今までやってきたこと,試験テクニックで合格者を大勢出すことは,大きな意味で間違っていたのではないかと感じられたからです。

気づいたきっかけは,ある試験対策本を読んだことでした。
その本はすごく内容が充実していて,私が教えていることや,それ以上の試験テクニックが満載で,ここに書いてあることを実践すれば,確かに合格はできるだろうなぁ,と感じるものでした。

表面的に見れば,それは素晴らしいことにしか見えないかもしれません。
でも私は,そこで,「ここまでやっちゃっていいのかなぁ・・・」という違和感を覚えました。
「この手法を身につけて簡単に合格する人が増えることが,果たしていいことなのか?」と考えた時に,それがいいとは言い切れない自分がいることに気づきました。

ちなみに,どうも言葉の定義があいまいで誤解を招きやすいようですが,私が「試験テクニック」というときには,「実際の実力とは関係がない,試験に合格するためのやり方」のことを指しています。
ですので,2日間で簡単に丸暗記したら合格,といった方法だけではなく,1か月ぐらいかけて訓練する,「試験に合格するためだけの論述の書き方」なども含まれています。

そこで改めて考えてみると,最近の合格者は,必ずしもその試験に合格するだけの実力を持ち合わせていないことが多くなってきたのではないか,ということに思い当たりました。
以前,「情報処理技術者試験合格の価値は下がっている」の記事でも書いたのですが,試験の難易度が下がった結果,合格に必要な技術レベルが下がりました。
また,試験テクニックの普及で本来実力が足りない受験者が合格する,といった事態がよく起こるようになってきたとも考えられます。

私が情報処理技術者試験を受け始めたのは1996年(平成8年)ですが,その頃にはテクニック本などはなく,何冊かに分かれた勉強内容がまとめられた参考書で,地道に勉強をしていくことが主流でした。
その後,ITバブルが起きていた2000年前後に,受験者が激増して,その頃にいろんな参考書が新規出版されました。
「1冊ですべてが分かる」ことを売りにした本が主流になったのも,この頃からだと思います。

昔の情報処理技術者試験の参考書は,試験範囲も考えずに適当に作ったと思われるような本も多く,それでも需要と供給の関係で売れているという状況でした。
今はさすがに減ってきていますし,その頃に比べると,勉強する内容が明確になったという面で良くなったとは思います。

でも,売れる本が,「簡単に合格出来る本」ということになった結果,出てくる参考書が,どんどんテクニック満載になったりしている傾向があります。
それと試験の易化が組み合わさって大量の合格者がでた反面,「試験そのものの信頼性の低下」が起こっていると感じています。

「難易度が下がった」というだけなら,その分希少価値が少なくなって資格の価値が下がる,ということだけだと思います。
でも,「テクニックを使ったら,本来合格するべきではないレベルの実力の人も合格できる」ということになると,試験そのものの信頼性が下がり,試験自体に意味がない,ということにもなりかねません。

実際,昔に比べて,「情報処理技術者試験に価値はない」という人は,増えているように感じています。
昔は,「合格できない人」がねたみで言っているという感じだったのが,今は,「職場の仕事のできない人が持っていたので価値がないんだと思った」など,具体的に価値の低下を感じている人が多いように見受けられます。
きたみりゅうじさんのマンガにもあった,「資格持ってるSEって,バリバリ仕事できるよね?」といった疑問を感じる事態が増えてきているようにも感じています。

自分のことだけ考えて,本来の実力をつけるのをやめてテクニックで資格を取る人が増えると,資格の価値は下がります。
そうすると,試験を作った本来の目的である,「情報処理技術者に目標を示し,刺激を与えることによって,その技術の向上に資すること」や,「情報処理技術者の社会的地位の確立を図ること」に逆行することになってしまいます。
(試験の目的は,試験センターの「情報処理技術者試験の概要」に書いてあります。)

冒頭の意見にもあった,「試験に受かるためだけの勉強を認めて欲しい」というのは,個人で考えると勝手だとは思いますが,IT業界のことを考えると,いいことではないと考えています。
ですので,他人のコントロールをするつもりはありませんが,私自身としては,今後は資格試験のためだけのテクニックは教えないです。

試験対策の講師をやっていると,ついつい「目の前の受験生を合格させたい」と思いますし,それで合格してくれるとすごく喜びになります。
ですので,ついつい「簡単に合格できる方法」を進化させてしまうのですが,その方向性は,今考えると視点が低かったんだな,と感じています。
進化の先を見ることができて,今の時点でその方向の誤りに気づくことができて,良かったと思います。

もう一つ,「年寄りはテクニックで資格武装が必要」というのは,私はむしろ逆だと考えています。
今,IT業界で大きな問題となっているのは,「仕事ができない中高年の正社員の増加」です。
ITバブル期に入社した社員の多くが40~50代になって,会社全体が高齢化してきている現象があります。

ここで,昔の技術だけで新しい技術を勉強しない中高年の社員を多く抱えていると,会社自体の存続が危うくなります。
ですので,情報処理技術者試験の合格を奨励したりして,使える人材になって欲しいという方向性を出したりします。
すると,「資格ハラスメント パワハラ 新たな形態」のような,会社を非難するような記事になったりします。

こういう場合,会社と対立しない現実的にベストな方向というのを考えると,「勉強して使える新しい技術を身につける」ことになるはずです。
試験勉強の方向性と合わせて,その分野の勉強を詳しく行うことで,実務にも使えるスキルをつけることは,普通にできますし,それが本来の姿です。
ここで,テクニックで合格してリストラ対象から外れる,という風にやってしまうと,他の人が苦しい思いをするだけになります。

年を取ると新しいことが学びにくくなるという現実はあるかとは思いますが,それを直視した上で,必要なことを学んでいくのは大切だと思います。
何より,自分が社会のお荷物,って思っているよりは,役に立てる存在だと感じられる方が,幸福度は高いはずです。

試験テクニックで受かる人が増えることは,技術者の技術力アップにつながりませんし,IT業界や社会のためにはつながりません。
ですので,試験も,テクニックで受かりにくくなる方向に進化してくるはずです。
実際,去年(平成25年)の秋試験では,試験テクニックでの合格者が減っている印象があります。

私自身も,自分の仕事が社会の役に立っているという意義を感じたいですし,そのために,今後は本物の技術力をつけるための情報を提供していきます。
会社の売上とか目先の利益を考えると怖いところでもあるのですが,いざとなったら秋葉原から田舎に移転して,地味に暮らすのもいいかな,って考えています。

長くなりましたが,私が試験テクニックを教えるのをやめた理由は以上です。
納得いかない方もいるかとは思いますが,今後はこの方針でいきます。

ただ,最近やたらと真面目になってしまっていたので,もうちょっと昔ながらの,「試験を楽しむ」方向性は復活させたいかな,って考えています。
同じことをやるなら,楽しんでやった方が気持ちいいですし身につきやすいです。

ということで,今後ともよろしくお願いいたします。