研究プラットフォーム「Nexus」にAI推薦機能を追加しました
今年2月に立ち上げた学習支援プラットフォーム「Nexus(ネクサス)」を大きくアップデートし,かねてより開発を進めていた AI推薦機能(AIおすすめ演習) を公開しました。これは,学習者一人ひとりの解答結果から 分野・知識項目ごとの理解度(習熟度)を推定し,次に解くべき問題をAIが選ぶ 機能です。本コラムでは,何ができるようになったのか,そしてこの機能が研究としてどのような意味を持つのかを紹介します。
本記事は,2026年2月に公開した 研究プラットフォーム「Nexus」立ち上げ の続報です。Nexusの背景や研究の全体像は,まず立ち上げ記事をご覧ください。
- Nexus URL: https://nexus.wakuwakustudy.net/
概要
Nexusは,「データを元に個別最適化したIT教育システムの構築と効果検証」を軸とした,大学院での研究の一環として運営している学習プラットフォームです。立ち上げ時点では,過去問演習(年度別・分野別)と学習行動データの収集を中心に提供してきました。
今回のアップデートでは,そこに AI推薦機能 を追加しました。学習者がこれまでに解いた問題の正誤をもとに,AIが「いま,どの知識項目が身についていて,どこが弱いか」を推定し,その人にとって次に解くのが効果的な問題を自動で選んで出題 します。従来の「自分で年度や分野を選んで解く」演習に対して,「AIにおまかせで解く」 という新しい学び方が加わった形です。
AI推薦機能は,研究の性質上,まずは 研究にご参加いただいている学習者の方向け に公開しています。
主要ポイント
- AIおすすめ演習 — 解答結果から知識項目ごとの理解度を推定し,次に解く問題をAIが選択
- 習熟度の推定 — 「知識項目(KC:Knowledge Component)」という細かい単位で理解度を追跡し,それを集計して大分類・中分類の単位で得意・弱点を可視化
- 科目A-1/科目A-2の2つのトラック — 高度区分・情報処理安全確保支援士試験では共通知識(A-1)と専門知識(A-2)が分かれており,それぞれに最適な問題を出題
- 試験区分を横断した出題 — 同じ知識項目を問う問題であれば,別の試験区分の過去問も活用
- 研究としての比較 — 「問題の選び方(推薦方式)」による学習効率の違いを検証中
詳細セクション
AI推薦機能とは ― 何をするのか
これまでの演習では,「どの年度を解くか」「どの分野を解くか」を学習者自身が選ぶ必要がありました。しかし,自分の弱点を正確に把握して最適な問題を選ぶことは,実はとても難しい作業です。
AI推薦機能では,この「次に何を解くか」をAIが引き受けます。サイドバーの 「AI推薦」 から演習を始めると,AIがあなたのこれまでの解答履歴を分析し,いま解くのに最も効果的だと判断した問題を1問ずつ提示 します。1回の演習で解く問題数(3問・5問・10問・20問など)は,学習者が選べます。
「習熟度」をどう推定しているのか
AI推薦の土台にあるのが,知識項目(KC:Knowledge Component)単位での習熟度推定 です。
Nexusでは,1問1問に「その問題を解くのに必要な知識項目」を紐づけています。学習者が問題に解答するたびに,その正誤を根拠として,関連する知識項目の 「習得できている確率」 を推定・更新します。この考え方は,教育工学で広く使われている知識追跡(Knowledge Tracing)の手法にもとづいています。
これにより,「分野レベル」よりもさらに細かい粒度で,どの知識が身についていて,どこがあやしいか を捉えられます。推定された習熟度は,次に出す問題の選択に使われます。今後,KC単位での弱点の可視化にも対応し,学習の現在地を振り返るフィードバックとしても活用していきます。
科目A-1(共通)と科目A-2(専門)の2トラック
情報処理技術者試験のうち,高度区分と情報処理安全確保支援士試験では,共通知識を問う科目A-1 と 専門知識を問う科目A-2 に分かれています。NexusのAI推薦も,この2つを 別々のトラック として扱います。
- 科目A-1トラック:応用情報レベルの共通知識を対象にした,おすすめ演習
- 科目A-2トラック:受験区分ごとの専門知識を対象にした,おすすめ演習
学習者は演習の入口でどちらを解くかを選べます。その際,習熟度をもとに「こちらがおすすめ」 という目安も表示します。なお,習熟度そのものは両トラックで共有しているため,A-1で解いた結果はA-2の推薦にも反映されます(同じ知識項目は,どちらで学んでも同じ「理解度」として扱われます)。
試験区分を横断した出題
Nexusの知識項目は,特定の試験区分に依存しない形 で設計しています。そのため,たとえば「TCP/IPに関する知識項目」であれば,応用情報の過去問でも,ネットワークスペシャリストの過去問でも,同じ知識の証拠として扱える ようになっています。
この仕組みにより,AI推薦は自分の受験区分だけに縛られず,同じ知識項目を問う良問を,区分を越えて出題 できます(もちろん,難易度が大きく離れないよう配慮しています)。出題した問題には,どの試験・どの年度の問題かという 出典を必ず表示 します。
プレテスト/ポストテストの実施
学習を始める前に,現在地を知るための プレテスト を用意しています。プレテストを受けることで,学習を始める前の得意/不得意や実力の水準を把握できます。その後,10月に公開予定の ポストテスト を受験いただくことで,学習による実力の伸びを測定できます。
研究としての位置づけ
Nexusは学習ツールであると同時に,研究の実証環境 でもあります。今回のAI推薦機能で検証したい中心的な問いは,「AIによる問題推薦は,従来の学び方(弱点分野の復習・間違えた問題の解き直しなど)と比べて,本当に学習効率を高めるのか」 という点です。
そのため,推薦の内部では 問題の選び方が異なる複数の方式 を用意し,どの方式がより効果的かを比較する研究デザインを採っています。学習者の画面上はどの方式も同じ「AIおすすめ演習」として表示され,方式の違いは体験としては意識せずにご利用いただけます。
また,こうした検証を支えるために,Nexusでは解答の正誤だけでなく,画面遷移や滞在時間,AIの提案に対する反応といった 学習行動データ を記録しています。データの取り扱いと研究参加については,Nexus内の同意・倫理に関するページでご確認いただけます。
対応範囲と今後
現在,AI推薦は 応用情報技術者試験・情報処理安全確保支援士試験・ネットワークスペシャリスト試験 の3区分に対応しています。基本情報技術者試験も一部対応していますが,プレテスト/ポストテストなどをまだ公開しておらず,近日中の完全対応を予定しています。
推薦に使える問題は,問題の公開や知識項目の整備が進むごとに 自動的に増えていく 設計にしているため,対応範囲は今後さらに広がっていきます。今後の主な予定は,次のとおりです。
- 対応区分の拡大:公開済み問題の整備にあわせて,推薦対象を順次拡大
- 習熟度の可視化強化:推定した理解度を,学習者がより活用しやすい形で表示
- フィードバックの充実:「次に何をすべきか」の提案を,より分かりやすく
協力者募集について
Nexusは引き続きベータ版として運営しており,より良いプラットフォームへ育てていくために,ご協力いただける方を募集しています。AI推薦機能は研究参加者の方向けに公開していますので,実際に使ってみたい方,フィードバックをお寄せいただける方 を特に歓迎します。
- 学習者: 実際にNexusで試験対策を行い,AI推薦を使ってみたい方
- フィードバック提供者: 使い勝手や機能改善についてご意見をくださる方
- 研究協力者: 学習データの分析や学習モデルの構築に関心のあるエンジニア・研究者
まとめ
今回のAI推薦機能の追加は,「データを元に一人ひとりの学習を最適化する」という研究の中核を,実際に学習者が使える形にする大きな一歩です。AIが弱点を見つけ,次の一問を選び,学習の現在地を映し出す――そんな学びの形を,Nexusを通じて実証していきます。
少しでも興味を持っていただけた方は,ぜひ一度 Nexus を覗いてみてください。研究の進捗は,本コラムでも引き続き報告していきます。