株式会社わくわくスタディワールド

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論述系試験がなぜ難しく感じるのか分析してみた

情報処理技術者試験の高度区分では,建前上は全9区分が“レベル4”に分類され,同じ難易度ということになっています。
しかし,現実問題として難易度や合格率には差があり,企業の報奨金などでも差がついています。

具体的には,報奨金は,論述系各区分≧記述系各区分となっていることが多いのです。
(ここで,論述系各区分とは,午後2試験が論述式である,プロジェクトマネージャ(PM),システム監査技術者(AU),システムアーキテクト(SA),ITストラテジスト(ST),ITサービスマネージャ(SM)の5区分を,記述系各区分とは,情報セキュリティスペシャリスト(SC),ネットワークスペシャリスト(NW),データベーススペシャリスト(DB),エンベデッドシステムスペシャリスト(ES)の4区分を指します)

この差はなぜ生じるのか,なんとなく感じている人は多いと思いますが,データを用いて分析してみました。

午前1から午後1まででは差が出ない

高度9区分は,すべて午前1,午前2,午後1,午後2の4つの試験があり,このすべてで60点以上(論述系午後2は評価A)を取る必要があります。
午前1は高度区分すべての共通問題で,午前2は各区分ごとの選択式,午後1は各区分ごとの記述式です。

午前1から午後1までの突破率などを見ると,特に論述系かどうかによっての差は見られません。
一番比較しやすいのは共通問題である午前1ですが,午前1の突破率をグラフにすると,次のようになります。

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実は,午前1(応用情報技術者試験(AP)では午前)の突破率は,試験区分や年度により30~80%と,大きく変動します。
これは,年度によって難易度が一定ではないということでもありますし,受験者層によって同じ問題でも突破率に差が出るということだと考えられます。

全体的には,応用情報技術者試験(AP)の受験者が一番午前の突破率が低いのは当然として,高度区分を比較すると,突破率は,

 (ST,AU)≧(SA,NW,DB,ES)≧(SC,PM,SM)

ぐらいの感じになっています。それほど有意に差があるわけではありませんが,なんとなくITストラテジストやシステム監査技術者を受験する人は,午前1ぐらいは突破できる人が多い,ぐらいの傾向です。
その他は,論述系の区分とそうでない区分が混ざっていますので,受験者のレベルという意味では,特に差がないように見受けられます。

突破率に差が出るのは午後2

午後1までは突破率にそれほど差はないのですが,午後2での突破率は,ほぼすべての試験において,記述系区分>論述系区分となります。
次のグラフが,午後2の突破率を表したものです。

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過去7年間で,平成26年秋ネットワークスペシャリスト試験の午後2を除き,記述系試験の午後2突破率は46%以上で,50%前後が平均となります。
それに対し,論述系試験の午後2突破率は,最高でも平成24年春システム監査技術者試験の46.2%で,平均すると40%前後となります。
だいたい図の点線(46%前後)を中心に上下に分かれる形で,突破率には大きな差があります。

そのため,この午後2の突破率の低さが,論述式試験の難しさを感じさせていると考えられます。
結論としては,『論述式の試験は午後2の論述が難しい』という当たり前のものですが,逆にこれ以外には特に差がないともいえます。

論述式では,“A”を取らないと合格できない

記述式の午後2試験では,点数にして“60点”以上が取れれば突破できます。
そのため,「6割でいいんだ」という定量的な目安がありますし,過去問演習などでも自分でどれくらい取れているかを,ある程度推測できます。

それに対し,論述式の『“A”をとる』というのは,最高級の評価じゃないと受からない,という気がして,難しく感じてしまいます。
しかし,実はAというのはそれほどハードルが高いわけではありません。

だいたいどの試験区分でも同じですので,例として,平成28年度春期のプロジェクトマネージャ試験午後2の得点分布をグラフにしてみました。

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A,B,C,Dの4段階ですが,Aの人数が一番多いことがわかります。
この,『一番人数が多いグループ』に滑り込むことが,合格のための必要条件となります。

半分ぐらいが午後2を突破できる記述式に比べて難易度が高いと感じるのは事実ですが,実はそれほど高い敷居ではありません。

現実問題としては,C,Dはよっぽど論述に不備がないとつきません。
ただ,論述式の書き方や趣旨を知らないと,C,Dがつくことがありますし,“試験対策”という準備をしない受験者層も,一定の割合で存在しまず。

形式が整っていればB以上にはなりますし,それほどしっかりした論文ではなくても合格ラインに行きます。
2時間で完璧な論文を書くことは無理ですので,押さえるべきポイントを押さえていれば大丈夫なのです。

どうすれば“A”になるのかを知ると,ハードルは一気に下がる

先日,「論述系は“うまく嘘をつく”試験」の記事で書きましたが,論述系の試験のポイントは,問題に合わせた建前(嘘)を書くことでもあります。
このあたりが,試験対策としての論述系試験を知らないと,陥りやすい罠です。

記述式の試験だと,問題文に素直に答えていくだけなので,特に“試験対策”にこだわらなくても,スキルや知識があれば合格が可能です。
その差が,午後2や合格率の差に表れているのではないかと考えています。

少し裏話をすると,試験対策の講義をして“合格率を上げる”ということだけを考えると,記述系より論述系の方が結果が出しやすいのです。
論述系は,試験特有の上記のようなコツを知らない人が多いですし,それを伝える“だけ”で,一定割合の人は合格できるようになるからです。
特に,企業研修などで,優秀な実務経験者が揃っている場合には楽です。

ちょっと話がそれてしまいましたが,論述系の試験の方が記述式の試験よりも難しく感じてしまいがちですが,実はそうでもないというのは事実です。
必要なら,少しでも“試験対策”をして,合格を手に入れていきましょう。