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情報処理技術者試験改訂のポイント 〜フルスタックエンジニアを目指す〜

情報処理技術者試験改訂のポイント 〜フルスタックエンジニアを目指す〜

以前,このブログで,『「フルスタックエンジニア」を目指す』という記事を書きました。
フルスタックエンジニアは,システム開発の全工程を理解し,実践できる能力を持つエンジニアです。今回の情報処理技術者試験の改訂では,このフルスタックエンジニアの育成を目指した内容が盛り込まれています。

情報処理技術者試験の改訂ポイント

前回の『情報処理技術者試験に「データ・AI」新区分が登場する話』で述べたように,2027年度からの試験では,応用情報技術者試験・高度試験の再編が行われます。『プロフェッショナルデジタルスキル試験』(仮称)で,再編される3区分には,次の3つの領域があります。

  • マネジメント・監査領域
  • データ・AI領域
  • システム領域

経済産業省は,2025年5月に公表した「Society 5.0 時代のデジタル人材育成に関する検討会」の報告書で,今後求められるエンジニア人材像として,『フルスタックのエンジニア』 を挙げています。フルスタックのエンジニアとは,「コンピュータサイエンス等の基礎知識を有し、先端技術やテクノロジートレンドをおさえた上で、仮説検証を通じた価値創造に貢献するエンジニア」と定義されています。これがまさに,今後求められる,フルスタックエンジニアの姿です。

フルスタックの分野とは?

それでは,どのようなスキルがフルスタックで,今後求められるのでしょうか?

「Society 5.0 時代のデジタル人材育成に関する検討会」の中のタスクフォースに,「ITエンジニアリング人材の育成に関するタスクフォース」があり,そこの資料で,「情報処理技術者試験の概要(PDF)」が公開されています。この資料の中で,今回の試験改訂につながる,応用情報技術者試験の午後の出題範囲を次の3つに分ける案について議論されています。

  1. ビジネス系
  2. システム系
  3. データ・AI系

それぞれの系統に含まれる内容を,応用情報技術者試験(AP)の午後試験や,高度区分の試験内容から分類すると,次のようになります。

1. ビジネス系

  • 経営戦略・情報戦略・戦略立案・コンサルティングの技法に関すること(AP午後問2,ST試験)
  • サービスマネジメントに関すること(AP午後問10,SM試験)
  • プロジェクトマネジメントに関すること(AP午後問9,PM試験)
  • システム監査に関すること(AP午後問11,AU試験)

ここで,STはITストラテジスト試験,SMはITサービスマネージャ試験,PMはプロジェクトマネージャ試験,AUはシステム監査技術者試験を指します。

2. システム系

  • システムアーキテクチャに関すること(AP午後問4)
  • ネットワークに関すること(AP午後問5,NW試験)
  • 情報セキュリティに関すること(AP午後問1,SC試験)
  • 情報システム開発に関すること(AP午後問8,SA試験)
  • フィジカルコンピューティングに関すること(仮)(AP午後問7,ES試験)

ここで,NWはネットワークスペシャリスト試験,SCは情報処理安全確保支援士試験,SAはシステムアーキテクト試験,ESはエンベデッドシステムスペシャリスト試験を指します。
フィジカルコンピューティングは,現在の「組込みシステム開発」を名称変更したものになります。

3. データ・AI系

  • アルゴリズム・プログラミングに関すること(AP午後問3)
  • データマネジメントに関すること(仮)
  • データ基盤構築に関すること(仮)(AP午後問6,DB試験)
  • AIに関すること(仮)

ここで,DBはデータベーススペシャリスト試験を指します。 データ基盤構築に関することは,現在の「データベース」を名称変更したものになります。

これらの3つの分野が,次の『プロフェッショナルデジタルスキル試験』(仮称)で扱われるものの元になると考えられます。

「広い学び」を推進するため、3つのブロック全てを受験してもらう想定。⇒全て合格でフルスタック認定

とも書かれており,3つの分野を横断的に学ぶことがフルスタックエンジニア育成の鍵になることが示唆されています。

改訂の原動力となったと考えられる現行試験の問題点

このように,3つの分野に整理してみると,現行の情報処理技術者試験には,次のような問題点があることがわかります。

1. ビジネス系への偏り

現行の応用情報技術者試験では,午後問題で4問,ビジネス系の問題が出題されます。午後問題の選択は4問なので,必須の情報セキュリティを除くと,ビジネス系の問題を選択するだけで,試験に合格できてしまいます。
このため,システム系やデータ・AI系の知識が不足したまま,応用情報技術者試験に合格してしまう受験者が多いのが現状です。いわゆる「文系セット」での合格です。
このようなかたちで合格した受験者が,技術的なスキルを身につけないまま,ITエンジニアとして働くことが多いのは,IT業界全体のスキル不足を招く一因となっていると考えられます。

また,高度区分の試験でも,ITストラテジスト試験,ITサービスマネージャ試験,プロジェクトマネージャ試験,システム監査技術者試験の4つは,ビジネス系の内容が中心です。これらの試験区分では,技術的なスキルが問われることはほとんどありません。国語力があれば比較的取得しやすく,ITエンジニア以外の方でも取得しているケースが多いです。
個人的には,これらの試験区分はあっても良いとは思いますが,4区分も必要かどうかは疑問です。1区分に統合し,技術的な内容も盛り込むなどの見直しがあっても良いのではないかと考えています。

2. システム系の境界があいまい

システム系の情報セキュリティ,ネットワーク,システムアーキテクチャ,システム開発などは,昔は独立した分野で,明確に分かれていました。しかし,近年はこれらの分野が密接に関連し合うようになり,明確な境界がなくなっています。例えば,クラウドコンピューティングの普及により,ネットワークとシステムアーキテクチャの境界は非常にあいまいになっています。システムを開発する,といったときには,一部の知識だけでは対応できないことが多く,全ての分野を学習することが強く求められるようになっています。

また,システム系の情報処理技術者試験には,システムアーキテクト試験,ネットワークスペシャリスト試験,エンベデッドシステムスペシャリスト試験の3つがあります。これらも,それぞれの分野が密接に関連し合うようになっているため,3区分に分ける必要性は低くなっています。特に,ネットワークスペシャリスト試験は,情報処理安全確保支援士試験と内容が重複する部分が多く,独立した試験である必要は薄れていると感じています。
なお,情報処理安全確保支援士試験は,今回の試験制度改訂でも独立した試験区分として存続する見込みで,この枠組みからは対象外です。

3. データ・AI系の重要性の増大

データ・AI系の分野は,近年急速に重要性が増しています。ビッグデータ,データサイエンス,機械学習,AIなどの技術が発展し,ITエンジニアにとって必須のスキルとなりつつあります。
しかし,現行の情報処理技術者試験では,データベーススペシャリスト試験のみがデータ・AI系の内容を扱っており,その範囲も限定的です。データ・AI系の分野を強化し,ITエンジニアが必要なスキルを身につけるための試験区分が求められています。

また,プログラミング・アルゴリズムに関する内容は,現行の高度区分には存在しない ため,応用情報技術者試験まででしか学習できない状況です。昔は,高度区分のプロダクションエンジニア,応用情報技術者試験の前身の第一種情報技術者試験やソフトウェア開発技術者試験で,プログラミング・アルゴリズムに関する内容が扱われていました。しかし,これらの試験区分が廃止されたため,高度区分でプログラミング・アルゴリズムに関する内容を学習する機会がなくなっています。
ITエンジニアにとって,プログラミング・アルゴリズムのスキルは大切なのですが,現行の試験区分では,避けて通れないのは基本情報技術者試験までです。応用情報技術者試験をビジネス系やシステム系の問題だけで合格してしまうと,プログラミング・アルゴリズムのスキルが身につかないまま,高度区分に進んでしまうことになります。

今,学ぶべきこと

このような問題点を踏まえ,今回の情報処理技術者試験の改訂では,3つの分野を横断的に学ぶことが求められるようになります。これにより,ITエンジニアがフルスタックのスキルを身につけることができ,IT業界全体のスキル向上につながることが期待されます。
しかし,試験の改訂は2027年以降で,今年(2026年)はまだ現行の試験区分が続く予定です。応用情報技術者試験や高度区分の試験に合格したい方は,今年がラストチャンスとなる可能性が高いです。CBT試験になることが決まっており,試験時期もまだ未定ですが,後悔のないように,しっかりと準備を進めてください。

来年度以降の受験を考えている方は,ぜひ3つの分野をバランスよく学習し,フルスタックエンジニアを目指していただきたいと思います。応用情報技術者試験の午後(今回からは科目B)の過去問題は,3つの分野からまんべんなく出題されています。過去問題を解きながら,3つの分野をバランスよく学習することが,フルスタックエンジニアを目指す第一歩となるでしょう。

未来は不透明ですが,確実に変わってきています。変化に対応できるフルスタックエンジニアを目指して,一緒に進んでいきましょう。

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