プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験を読み解く【前編】― NW・ES・SAはどこへ行ったのか
2027年度から始まる新試験制度で新設されるプロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(PD-S)について,先行公開された科目Bのシラバス(案)を読み解きます。前編では,「NW・ES・SAの3区分がどう統合されたのか」という制度と統合の構図を分析します。結論を先に言うと,これは単純な足し算ではなく,工程ごとの「再配置」が行われており、新しい内容もかなり追加されています。
まず押さえる事実 ― PD-S試験とは何か
分析に入る前に,一次情報を整理しておきます。
- 2027年度から新試験制度に移行し,現行制度は2026年度の試験実施をもって終了予定です。現行の高度試験(NW・ES・SAなど)を現行制度で受けられるのは,実質的に2026年度が最後になります。
- PD-Sの位置づけ:「デジタル技術を適用するシステムの要件定義・アーキテクチャ設計・開発・運用を主導する専門的な知識及び技能」を評価する試験とされています。
- 試験構成:科目A-1(90分・60問)/科目A-2+科目B 合わせて120分(A-2は23問,Bは12問)。全問必須解答・全問多肢選択式(四択とは限らない),CBT方式です。
- シラバス(案)Ver 0.1 は,現時点で科目Bのみ先行公開されています。A-1共通シラバスは別途公開される見込みで,新試験のシラバス案・サンプル問題は2026年夏頃を目途に順次公表される予定です。
- 免除制度は現行高度試験と同等に加え,現行試験からの経過措置も検討中とされています。
この記事で分析するのは,先行公開された 科目Bのシラバス(案) です。
出典:本記事は,IPAが2026年6月30日に公開した「試験要綱・シラバスの変更について」に含まれる,プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(PD-S)科目B シラバス(案)Ver 0.1(PDF)を分析対象としています。
本論①:統合の構図 ―「3区分統合」の実態は「再配置」
PD-Sは,しばしば「ネットワークスペシャリスト(NW)・エンベデッドシステムスペシャリスト(ES)・システムアーキテクト(SA)の3区分を統合した試験」と説明されます。しかし科目Bのシラバスを大項目の構成から見ると,単純な「NW+ES+SA=PD-S」ではないことがわかります。
科目Bは,次の4つの大項目で構成されています。それぞれが,現行のどの試験を母体としているかを対応させると,構図が見えてきます。
| 大項目 | AP科目Bの対応分野 | 母体となる高度区分 | 性格 |
|---|---|---|---|
| 1 システムアーキテクチャ | 問4 | SAの上流(企画・要件定義・方式設計) | 高度寄り |
| 2 ネットワーク | 問5 | NWほぼ全域 | 最も高度寄り |
| 3 フィジカルコンピューティング | 問7 | ESの技術面(戦略面は欠落) | 高度寄り |
| 4 システムの開発・運用 | 問8 | SAの下流+AP開発系+SM運用の一部 | AP〜高度の中間 |
この表から読み取れる,4つの構造的なポイントを挙げます。
ポイント1:SAは「上流」と「下流」に分割吸収された
もっとも重要な発見は,SA(システムアーキテクト)が大項目1と大項目4に分割吸収されていることです。「大項目1に対応する高度区分がない」のではありません。SAの工程が,企画・要件定義・方式設計といった上流(大項目1) と,開発・実装に近い下流(大項目4) に切り分けられ,別々の大項目として再配置されたのです。
つまりPD-Sは,区分を「束ねた」のではなく,各区分の工程をいったん分解して並べ直した試験だと捉えるべきです。
ポイント2:大項目の切り方が「工程軸」と「技術領域軸」のハイブリッド
大項目1(システムアーキテクチャ)と大項目4(開発・運用)は,工程で切られています(上流/下流)。一方で大項目2(ネットワーク)と大項目3(フィジカルコンピューティング)は,技術領域で切られています。
この「工程軸」と「技術領域軸」が混在した切り方は,PD-Sの構造的な特徴です。受験者から見ると,大項目ごとに問われ方の性格が変わることを意味します。
ポイント3:ESの「戦略系」が消えている
現行のES科目B-2(論述)の柱だった「事業戦略・製品戦略・製品企画」が,PD-Sのシラバスからは見当たりません。大項目3(フィジカルコンピューティング)はESの技術面を引き継いでいますが,戦略面は欠落しています。
これは,戦略・企画系のスキルがPD-M(マネジメント)側へ寄った可能性を示唆します。PD-Sは「システムを作り・動かす技術」に軸足を置き,「何を作るかを決める戦略」はPD-Mが担う,という役割分担が透けて見えます。
ポイント4:運用系は「PD-M」と「大項目4(技術面)」に切り分けられた
大項目4には,SA下流やAP開発系だけでなく,SRE・運用管理・インフラ管理といった運用系の領域が含まれています。
ここで押さえておきたいのは,現行のITサービスマネージャ(SM)には,新制度でPD-M(マネジメント)試験という直接の受け皿(対応区分)が用意されていることです。サービスの企画・管理といった運用マネジメントの本流は,PD-M側が引き継ぎます。
そのうえでPD-Sの大項目4は,同じ運用でもSRE・インフラ管理といった技術面を受け持ちます。つまり運用系のスキルは,マネジメント面(PD-M)と技術面(PD-S 大項目4)に切り分けて再配置されたと読めます。ここでも前述の「再配置」という構図が一貫しています。
本論②:分野別分析 ― レベル感と新規トピック
ここからは,4つの大項目それぞれについて,「現行のどのレベルに近いか」「新しく登場したトピックは何か」を見ていきます。その前に,分析の方法論そのものを共有しておきます。これを知っておくと,今後シラバスを自分で読むときにも役立ちます。
分析の方法論:シラバスの「動詞」に注目する
シラバスのレベル感は,文末の動詞に表れます。PD-Sのシラバスには,「策定する」「提案し合意を得る」「調整し取りまとめる」といった動詞が並びます。これらは主体的に業務を主導するレベル4の言語です。
対して,AP(応用情報)のシラバスは「上位者の指導の下に〜する」という表現が中心で,レベル3にとどまります。同じテーマを扱っていても,動詞を見れば要求レベルの違いは明確に判別できます。この「動詞で読む」手法は,シラバス分析の強力な武器になります。
大項目1:システムアーキテクチャ(高度・SA上流寄り)
1-1〜1-3は,SA科目Bの企画・要件定義とほぼ同一の語彙で書かれています。ここは現行SA受験者にとって馴染みのある領域です。
一方,1-4の「クラウドリフト/シフト・モダナイゼーション・マイクロサービス」は,現行SAシラバスより一歩踏み込んだ新規領域です。単なる方式設計ではなく,既存資産のクラウド移行やアーキテクチャの現代化まで問う姿勢がうかがえます。
大項目2:ネットワーク(最も高度寄り・NWほぼそのまま)
3つの項目で,NW科目Bの構成(技術/企画・設計・構築/運用・保守)を完全に再現しています。4大項目の中で,もっとも高度区分そのままの色が濃い分野です。
「IPアドレス・AS番号・ドメイン名の体系的な設計・管理」「キャリア・ISP・クラウド事業者の評価・選定」といった記述は,AP問5の読解レベルを明らかに超えています。加えて,ゼロトラストが明示され,IoT/M2M・エッジが新規トピックとして加わっています。
大項目3:フィジカルコンピューティング(高度・ES技術面寄り)
3-1,3-2は,ESのソフトウェア設計・ハードウェア設計に対応します。注目すべきは新規キーワードで,フィジカルAI・ロボティクスは,IPAのシラバスに初登場級のキーワードです。時代を反映した,見出しにも使える象徴的な領域です。
大項目4:システムの開発・運用(AP〜高度の中間)
「IPOや画面遷移に着目した機能分割」「プログラムを作成してテスト」まで技能に含まれており,SAよりも手を動かす方向に寄っています。ここはAP開発系〜高度の中間的なレベル感です。
新規色が強いのは,AI駆動開発・CI/CD・DevSecOps・SBOM・SREといった領域です。これらは現行の午後試験ではほとんど問われてこなかったトピックです。
新規トピック=初回試験の主戦場
大項目2〜4を通して共通するのは,過去問が存在しない新規トピックが各所に埋め込まれていることです。ゼロトラスト,マイクロサービス,フィジカルAI,AI駆動開発,SBOM,SRE――これらは過去問でカバーできません。
新規トピック=過去問が存在しない領域=初回試験で新作問題が出る主戦場です。初回受験を狙うなら,ここを重点的に押さえる必要があります。
まとめ(前編)
前編では,PD-S科目Bシラバス(案)から,統合の構図と分野別のレベル感を分析しました。
- 「3区分統合」の実態は,工程ごとの「再配置」。SAは上流(大項目1)と下流(大項目4)に分割吸収された
- 大項目の切り方は 「工程軸」と「技術領域軸」のハイブリッド
- ESの戦略系は欠落し,マネジメント区分のPD-Mへ。SMの受け皿もPD-Mで,PD-Sの大項目4は運用の技術面を担う
- レベル感はシラバスの動詞(策定する/提案し合意を得る)で読める。全体にレベル4寄り
- 新規トピック(ゼロトラスト,フィジカルAI,AI駆動開発,SBOM等)が初回試験の主戦場
後編では,本題である出題形式の変化予想(全問多肢選択化のインパクト)と,現行過去問を使った学習戦略を分析します。1問あたり7〜8分という時間配分から見えてくる,試験の性格に踏み込みます。
▶ 後編:プロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験を読み解く【後編】― 出題形式の予想と学習戦略
なお,本記事が分析対象とするシラバスは (案)Ver 0.1 であり,IPA自身が「変更する可能性があります」と明記しています。内容は今後変わりうる点にご留意ください。