|

PD-S(システム)科目Bサンプル問題を読む ― 6分野の全体像と,「高度区分の午後1」ではなく「AP午後」に近い理由

PD-S(システム)科目Bサンプル問題を読む ― 6分野の全体像と,「高度区分の午後1」ではなく「AP午後」に近い理由

2027年度に新設されるプロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(PD-S)について,科目Bのサンプル問題が公開されました。これまで前編後編科目A編でシラバスを分析してきましたが,今回は実際のサンプル問題から,全体像と分野ごとのポイントを読み解きます。結論を先に言うと,難易度・出題スタイルは「高度区分の午後1」ではなく,むしろ「応用情報(AP)の午後」に近い——これが最大のポイントです。

科目Bサンプルの全体像 ― 6問・全問多肢選択式

公開されたサンプル問題は,問1〜問6の6問構成です。すべて多肢選択式(穴埋めや判断の「組合せ」を選ぶ形式が中心)で,記述はありません。1問あたりは図表付きの中くらいのボリュームで,読み取りと論理的な当てはめが問われます。

注目すべきは,6問がそれぞれ異なる技術分野から出題されていることです。IPAの「出題趣旨」に沿って整理すると,次のようになります。

題材分野(何を問うか)
問1不動産売買仲介システムの刷新要件定義(ダッシュボードの機能要件定義
問2パブリッククラウド上のECサイトクラウド基盤の運用設計(無停止更新・可用性)
問3橋梁点検IoTシステム(センサー+ドローン)システムアーキテクチャ(物理×デジタルの設計)
問4マイクロサービス構成のリアルタイムWebWeb/ネットワーク(WebSocket通信)
問5温室のトマト自動収穫ロボット組込み・フィジカル(状態遷移図)
問6旅行パッケージのアジャイル開発アジャイル開発(スクラムの役割・実践)

要件定義・クラウド・アーキテクチャ・ネットワーク・組込み・アジャイルと,「システムを企画・設計・開発・運用する」ために必要な技能が,広く薄く並んでいるのが分かります。特定分野を深掘りするのではなく,各デジタル技術の特性を踏まえて設計・実装できるかを,満遍なく問う設計です。

「高度区分の午後1」ではなく「AP午後」に近い

PD-Sは,現行のNW・ES・SAといった高度区分の受け皿です(→ 前編)。シラバスも高度区分に近いため「高度区分の午後1のような,専門特化した難しい記述問題になるのでは」とも考えられました。ところが,サンプル問題を見ると印象はかなり違います。

高度区分の午後1は,各区分の専門領域に深く入り込む問題です(NWならネットワーク,DBならデータベース,というように)。一方,PD-Sの科目Bは,複数の技術分野を横断し,実務的なシナリオの中で「適切に判断・設計できる力」が問われています。この作りは,応用情報技術者(AP)の午後試験によく似ています

分かりやすいのが問3(橋梁点検IoTシステム)です。センサーノードとカメラロボット(ドローン)で橋梁を点検するシステムを題材に,デバイスの制約や通信の即時性を踏まえて,物理空間とデジタル空間をつなぐシステムアーキテクチャを設計する能力が問われています。これはまさに,AP午後の「問4 システムアーキテクチャ」の分野そのものです。「診断サーバ上の橋梁情報は即時性がないので制御に使えない → センサーノードに直接要求して橋梁情報を得る」という,構成要素の役割と非機能特性(即時性・信頼性)を踏まえた設計判断が正解の軸になっています。

同様に,問5は状態遷移図を完成させる 組込みシステム開発(AP午後「問7」に相当),問6はスクラムの役割分担を問う アジャイル開発(AP午後「問8 情報システム開発」の系譜)です。PD-Sの科目Bは,AP午後の複数分野を,デジタル技術の最新トピックで作り直したような構成だと捉えると,対策の見通しが立てやすくなります。

各問のポイント(分野別)

問1:ダッシュボードの機能要件定義(正解:エ)

現行システムの業務・データの流れを読み解き,新システムのダッシュボードに「現在マネージャが確認している営業担当者ごとの情報」だけを正しく選び出す問題です。本文中の業務説明とデータ項目を突き合わせ,要件を過不足なく定義できるかが問われます。派手な技術ではなく,読解と要件の切り分けが勝負です。

問2:クラウド基盤の無停止更新(正解:イ)

ロードバランサーのグループ切換機能を使って,ECサイトを止めずにアプリケーションを新バージョンへ切り換える手順を検証します。「旧バージョンが最後にレスポンスを返した時刻より後に新バージョンがリクエストを受ける」といった,可用性を保つための時系列条件を正確に押さえられるか。いわゆるブルーグリーンデプロイ的な考え方が背景にあります。

問3:IoTのシステムアーキテクチャ(正解:キ)

前述のとおり,本サンプルの「システムアーキテクチャ分野」にあたる問題です。センサーノード・カメラロボット・点検制御装置・診断サーバという構成要素の役割と,即時性・信頼性といった非機能特性を踏まえ,データの流れを設計し直します。「どの構成要素が,何を,いつ持っているか」を図から正確に読み取る力が問われます。

問4:WebSocketによるリアルタイム連携(正解:ア)

マイクロサービス/コンテナで構成されたWebシステムで,WebSocketのハンドシェイクを扱います。Upgrade: websocketConnection: Upgradeヘッダ,ステータスコード101Sec-WebSocket-Acceptの計算にSHA-1を使うこと,そして相手がWebSocketを利用可能であることの確認まで。プロトコルの仕組みを正しく理解していれば解ける良問です。

問5:収穫ロボットの状態遷移(正解:ア)

温室のトマト自動収穫ロボットを題材に,状態遷移図(待機中→検出中→収穫中→積載中,異常)を完成させます。動作仕様の記述を丁寧に追い,どの条件でどの状態に遷移するかを対応づける,組込み・フィジカルコンピューティングの定番アプローチです。

問6:スクラムの役割と実践(正解:オ)

旅行パッケージ販売システムの機能追加をスクラムで進める題材です。スクラムマスターの支援は「自律的」な協働を促すものであること,ペアプログラミングでは「現行システムを開発した経験のあるメンバー(M6)」と「アジャイル経験のあるメンバー」を組ませて経験を共有する,といった役割とプラクティスの理解が問われます。

前編・後編の予想と,答え合わせ

シリーズで立てた予想は,おおむね当たっていました。

  • 1問7〜8分の中型ケース問題(後編の予想)→ ほぼ的中。図表付きで,1問を手際よく処理する形式です
  • 統合された各区分(NW・ES・SA…)の題材が横断的に出る前編)→ 的中。ネットワーク・組込み・アーキテクチャ等が1セットに並びました

学習のポイント

  • まずAP午後を軸に:システムアーキテクチャ・ネットワーク・組込み・システム開発など,AP午後の各分野の過去問が有効な素材になります。選択式を意識して読み直しましょう
  • 広く薄く,穴を作らない:6分野がまんべんなく出るため,苦手分野を残すと失点に直結します
  • 非機能特性で判断する:即時性・信頼性・可用性・保守性といった「〜性」で設計を選ぶ問題が目立ちます。用語の暗記より,特性を根拠に構成を選ぶ練習を
  • 最新トピックはシラバスで補完:クラウドネイティブ・WebSocket・IaCなど新しい用語は,科目A編で整理した範囲で押さえておくと安心です

まとめ

  • PD-S科目Bサンプルは6問・全問多肢選択式。要件定義/クラウド/アーキテクチャ/Web/組込み/アジャイルの6分野から出題
  • 難易度・スタイルは高度区分の午後1(専門特化の記述)ではなく,AP午後(複数分野横断の実務問題)に近い
  • 特に問3はシステムアーキテクチャ分野で,AP午後「問4」に相当する題材
  • 対策はAP午後の過去問を軸に,非機能特性で設計を選ぶ練習科目Aの最新用語で補完

新試験全体の公開状況は全体まとめ記事で,PD-Sの最新情報はPD-S区分ページでも整理しています。

出典:本記事は,IPA公開のプロフェッショナルデジタルスキル(システム)試験(仮称)科目Bのサンプル問題PDF)を分析対象としています。(仮称・案) の段階であり,IPAは「変更する可能性があります」と明記しています。なお,応用情報技術者試験(AP)の午後の出題分野との対応は,本記事による解説上の対比です。

▶ シリーズ:【前編】統合の構図【後編】出題形式と学習戦略【科目A編】専門知識/【科目Bサンプル編】(本記事)

この記事をシェア